中沢啓治作 まんが 『はだしのゲン』 翻訳出版グループ

 
   アメリカから届いた14歳少女の手紙        
  プロジェクト・ゲン様

 私が「はだしのゲン」を読み始める前は、1945年8月6日に起こったことについて、とても間違った考え方をしていました。原爆投下に関するもので、私が見つけられるあらゆるものを探しました。ジョン・ハーシー(アメリカの小説家・ジャーナリスト。第二次大戦に記者として従軍、イタリア・日本などを題材とした記録や小説を書いた)の著書「広島」などです。けれども、すべて感情のないただの記録で、原爆投下後の混乱は、他の歴史上のどの瞬間とも同じように描かれていました。そのため、私は原爆の恐ろしさについては判らないいままでいました。

 控えめに言っても、何を読んでも私は満足できませんでした。と言うのも、どこを見ても感情のない淡々とした事実だけで、一番大事な問題である「アメリカが原爆を落としたのは正しかったのか。アメリカは正当だったと証明されたのか」には、何の答えも無いように思われました。

 私の家族は、その話題で分裂します。その話が出ると、私の父はとても感情的になり、たいてい大声を上げます。だいたい父と兄がそれについて話し、他の家族は傍観しています。父はアメリカは完全に正しかったと信じており、兄のディランは中立的な考えです。

 ちょうど今日、私たちが原爆のことを口にしただけで、父は怒りを爆発させました。父が言うには、もし一人のアメリカ人の命が救われるなら、百万人の日本人が死んでもかまわないとのことでした。この意見で私はひどく傷つきました。私はすべての命は平等だと思っています。あの原爆で、罪のない子供たちがたくさん死んでしまったのです。

 「はだしのゲン」を読む前、私は、原爆についてどう考えていたのか自分自身でわかりませんでした。心の中は、矛盾した思いで複雑な気分でした。私が答えを探していたとき、図書館の本棚にちょこんとのっている「はだしのゲン」を見つけました。
( 注 日本人篤志家の寄付により2006年から2007年にかけて全米約3000の公立図書館にゲンの1・2巻が寄贈されました。そのときのものと思われます。5年前に蒔いた平和の種はアメリカで確実に成長していることを感じています)
 兄のディランが、日本の文化の授業で「はだしのゲン」を読んだと言っていたのを思い出しました。それで私はその本を借りました。

 その時点では、変化を遂げた人間として、あの図書館に私は続きを借りに行くかどうかわかりませんでした。

 私は2,3ヶ月で、全10巻を読み終えました。時々、図書館が次の巻を注文するのを待たなければなりませんでした。待つのはつらかったです。

 私はそれぞれの巻で泣き、ゲンのジョーク全部に笑いました。ゲンの家族が、まるで自分の家族のように好きになっていきました。悲しい部分に来たとき、私は時々本を下に置かなければなりませんでした。ひどく苦痛を感じている描写を見ると、私は苦しくなってしまうのです。女の人とその子供の皮膚にガラスがいっぱい刺さっているのとか、お兄さんが小さな妹に覆い被さるようにかがみこんで、安全なところを探すうちに、防火用水の中で二人とも焼け死んでいるところとか、私はいつまでも覚えているでしょう。

 私はゲンが、燃えている家族を残して逃げなければいけなかった場面を決して忘れません。そのことを考えると、また泣けてきます。

 私は、1から4巻まで、二度読みました。わたしのお気に入りです。また読むのを楽しみにしていますが、悲しくて読むのはつらいので、それは簡単なことではありません。

 全巻を読み終えたとき、私は、怒りと、悲しみと、希望が入り交じったものを感じました。私がこの本の存在を知らなくて、たまたま巡り会ったことと、この本がたくさんの人にまだ知られていないままだということを残念に思います。
教科書には原爆について一言も書かれていないということに怒っています。とりわけ、私はだまされ、嘘をつかれていたことに腹が立ちます。人々はこの恐ろしい出来事を忘れてしまっていて、知らなくてこの上なく幸せだと思っているようです。私たちはどうして原爆のことを話さないのですか。それについてどうして学校で学ばないのですか。よごれて汚いもののように、どうしてそれに触れてはいけないのですか。私たちが原爆について話すとき、どうして互いに責任をなすりつけあうのですか。

 私は、原爆について今自分がどう感じているか、しっかりと理解しました。そして、その問題が話題に上るとき、私はもう臆病で、恥ずかしがり屋ではありません。

 私たちは非難しあうのをやめなければいけません。アメリカは原爆を落とすべきでなかったし、日本は真珠湾を攻撃すべきではなかったのです。戦時中に日本人が、一般市民の上に、あの残忍な兵器を落としたことを正当化できるものは確かに何もないのです。日本とアメリカは両方とも罪を犯したのです。

 でも、最も重要なことは、私たちがひとつの事柄で団結することです。原爆は、とてつもない破壊力を持ち、恐ろしく不当な兵器です。私は核兵器廃絶が実現すると信じています、、、核兵器廃絶という目的で、広島平和公園に燃えている炎が消される日が来るのを、私は楽しみにしています。

 今これらの本を読み終えて、私は生まれ変わったように感じます。この本は、平和が本当にどんなに大切かということに気づかせてくれ、また、私たちは平和を維持するために努力しなければいけないと、悟らせてくれました。中東とアメリカの関係が、どんどん悪化しているので、私たちの平和がどのくらい続くのかしらと思います。私はまだ子供なので、ただ祈るだけです。でも、私は他の人たちに「はだしのゲン」のことを話すことで、小さいことだけどなにかをしていると感じています。他の人たちといっしょに読むために、自分用の本を持てるのを楽しみにしています。

 真実に私の目を向けてくれたプロジェクト・ゲン、ありがとう。今まで私は何も知らなかったことにショックを受けました… 繁盛している闇市、大規模な食糧不足、やくざ、原爆、孤児、アメリカ兵にレイプされた日本人女性たち、朝鮮で原爆を使おうとする意図、決して原爆のニュースが広がらないように、アメリカ兵に「フィルター」として使われるための日本人誘拐、「自由と民主主義の国」アメリカによる日本人抑圧、、、まだまだ続けられます。

 焼けた被災者たちの描写が、何よりもっとも強く私の心を打ちました。皮膚が体からシーツのように垂れ下がって…

 さらにもうひとつの原爆が落とされる日が来るなら、広島と長崎の人々の命が無駄に奪われた日となるのです。

 プロジェクト・ゲンありがとう!中沢啓治さんありがとう!
 (ひらがなで)どうもありがとうございます!!

 この本がいつでも外国の読者の手に入るように取りはからってください。あなた方がこれらの本に注ぎ込んだ努力を称賛します。世界が「はだしのゲン」を必要としています!そして、中沢啓治さん、これらの本を書いてくださってありがとう。中沢さんは世界をよりよい方向にむかわせてくださいました。

 私は母国語でこれらの本を読めて、本当によかったです。私は日本語を習っているので、日本語で読むことを楽しみにしています。そのときは、私の個人的勝利となるでしょう。

 もう一度ありがとう。プロジェクト・ゲンと中沢啓治さん、どうか世界に影響を与え続けてください。あなた方は私にきっかけを与えてくださいました。

 明日私は困難な状況に陥っているかもしれません。でも、ゲンが測り知れない勇気と大胆さで、あらゆる挫折にどのように立ち向かったかを考えることでしょう。

 いつか、私はプロジェクト・ゲンの皆さんと会うつもりです。多分中沢啓治さん本人にも!                               
                (原文は英語。翻訳はプロジェクト・ゲン・チーム)